ピサのロマネスク様式:ピサ市内の他の教会

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サン・パオロ・アロルト教会

この教会については、すでに1086年から記録が残されている。教会の運営に当たっていたのは、1472~1808年までVia Romeaの修道院が抑圧されたときそこに居住していたアウグスティヌス会ドミニコ会の修道女たちだった。ファサードの下の部分は、当初は大聖堂に使われたピサ特有のロマネスク様式による装飾が見られる。半円形ブラインドアーチ、ピラスター、アーキトレーブ、ひし形や円花飾りのモチーフ、ツートンカラーの大理石によるはめ込み細工、グリエルモの弟子による特殊な意味の象徴として柱頭に彫り込まれた人頭や動物の頭部(12世紀末)といった要素だ。重厚感あるレンガの鐘楼堂はおそらく13世紀に建てられたとされる。

内部には、中世の作とされる柱頭と円柱に18~19世紀から残存するスタッコによる装飾が見られる。近年の改修により、12世紀および13世紀の絵画の跡が復興された。

サン・フレディアーノ教会

当時の記述によれば、この教会はすでに1061年には建てられていたという。身廊の両わきには、入り口から奥まで円柱と古典的柱頭の並びに支えられた拱廊が沿うバシリカ形式で建造されている。このファサードは、ピサ固有のロマネスク様式の中で最古で最も興味深い例でもある。中央上層部の身廊に対応する部分は三層に分かれている。貫禄ある一階の立面図は、円柱と受け材に支えられたブラインドアーチが連なり、二階は高い連双窓のある三連ブラインドアーチ、三階は細身のコーニスの上に二つの丸窓が穿たれている。こうしたアーチには、美しいダイヤ型の立体的な彫り込み装飾が施されている。

もともとのファサードの高さは後年になってさらに伸長された。正面大門扉は三面あり、それぞれ上部に半円形の縁取り装飾がある。主門扉上部には、古代ローマ時代にもさかのぼるまぐさ石が配され、のち中世になってそこに動物が絡み合うような装飾モチーフが加えられた。

この建築様式は、ピサの大聖堂のそれと類似するところがあることから、建造されたのは同年代の11世紀後半から1120年頃ではないかとされる。この教会の創設は、サン・フレディアーノに拠点を構えるようになったカマルドリ会の修道士たちがこの地に移ってきた関連ではないかともされる。

サン・ニコラ教会

サン・ニコラ教会は、1000年頃創立されたベネディクト修道院に隣接して建てられた。このファサード立面図の底部にはグレーと白の大理石が用いられていることから、建物がもともとロマネスク様式で建造されたことが分かる。装飾には、半円形アーチと尖頭アーチがピラスターに支えられて連なるブラインドアーチが用いられ、大理石による幾何学模様や植物モチーフのはめ込み細工は12世紀後半のものとされる。

この教会には、12世紀後半のものとされる一風変わった八角形の鐘楼堂がある。もともとは独立した構造体を持っていたが、現在は近隣の建物と統合的に組み込まれ、円形の基礎に支えられ上層部はブラインドアーチの連窓とダイヤ型の装飾が施されている。この頂上には、古典的スタイルの列柱による16面体型の大理石回廊がある。それがこの塔に設置された八角形の鐘楼を支える構造となり、各面は壁がんとブラインドアーチ三面が配されている。屋根は、ピラミッド型の先端を切断したような角錐台形になっている。この回廊までは、塔の周囲をらせん状に上がる大理石の美しい階段を上って行ける。

この塔はピサで三番目の斜塔でもある。その原因は、奇跡の広場にある大聖堂付設の斜塔が擁する問題と同じと見られる。

サン・ピエトロ・イン・ヴィンクリス教会

この教会は、12世紀初め、もともと1110年頃以前に建てられていた8世紀にもさかのぼる古い教会(サン・ピエトロ・アイ・セッテ・ピーニ教会)の基礎の上に築造された。二階建て設計の特異な教会建築としては見事な例である。教会の入り口でまず階段を数段上って本堂に入ると、広々とした中央身廊と円柱やピラスターが立ち並ぶ側廊により区分された空間がある。地下には圧巻の地下聖堂があり、重厚な円柱に支えられた十字ヴォールトには壮麗なフレスコ画が描かれている。

ファサードの外観は見かけ上二層構造を一体化させ、ピサの大聖堂の袖廊に似たスタイルと言える。大門扉三面は上部に連双窓が配され、奥まった丸窓とダイヤ型装飾のあるブラインドアーチが一列に連なる。ファサード上部には、三角形のティンパヌムのような形に連双窓が穿たれている。身廊の床面は、ロマネスク時代に特有のコズマテスク様式(コズマティ家の名にちなんで付けられた)として知られる典型的な円形の幾何学模様パターンの大理石モザイクが見られる。これは12世紀半ばのものとされる。

この教会の地下聖堂は路面と同じ高さになっているが、特に公証人による契約の作成など民間の事業取引が行われていたことも考えられる。

サン・マッテオ・イン・ソアルタ教会

サン・マッテオ・イン・ソアルタ教会は、1027年に設立されたベネディクト会修道院に隣接する大きなバシリカ教会である。サン・マッテオ教会のブラインドアーチ列にひし形枠の丸窓開口部がある壁の一部は、11世紀1025~1050年頃のものとされる。

建物は12世紀半ばに再建され、東側のファサードの一部にはロマネスク様式が反映される。もともとあったブラインドアーチとひし形パターンの建築装飾はそのまま残されたが、施工はより巧緻になり、新しい様式の特色とも言える白とグレーの大理石を交互に用い、ヴェルカーノとして知られる琥珀色の地元で採れる石との組み合わせによる多色使いの石細工が実現されている。

バシリカ教会内部は身廊と両わきの広い側廊二本から構成されるが、17世紀には一部取り壊され、新しいファサードを設けて別の小スペースを作るために再構成された。鐘楼堂は12世紀末のものとされるが、16世紀には一部解体された。

サン・ミケーレ・デッリ・スカルツィの教会

この教会は、トスカーナの街でコミュニティを作ることを望んだ、イタリア南端ガルガーノのサンタ・マリア・ディプルサノの修道院からの修道士のグループの命を受け、12世紀の終わりから13世紀の初めにかけてピサの郊外に建設された。
それは、2 つのアーケードにより中央の身廊 と側廊に分けられた大聖堂の形態で配置され、その円柱と柱頭 の一部は、古代ローマの建築物から回収され、再利用されている。中央の身廊は、半円形の後陣で終わっており、トラス屋根で覆われている。ファサード の底部は大理石に面しており、ブラインドアーケード、ひし形の紋章図形とアンティーク調の円形の盾(装飾円盤) で装飾されている。
中央門扉の上には、キリストの像が、1204年にビザンチンの彫刻家によって高浮き彫りで彫刻されている。オリジナルはムゼオ・ナツィオナーレ ・ ディ ・ サン ・ マッテオ ・ ディ ・ ピサに保管されており、複製に置き換えられている。
聖職者席の右側には支え無しに立つレンガ造りの鐘楼 があり、最も低い層は大理石に面している。3 番目と 4 番目の層のコーニスは、元来色鮮やかな釉をかけられた陶器のたらいで飾られている。ピサ大聖堂の鐘楼のように、このタワー は近くを流れるアルノ川に最も近い側の地盤沈降により、顕著に傾いている。

サント・セポルクロ教会

この教会は、11世紀末に聖地エルサレムでキリスト教巡礼者の支援と保護を目的に設立された騎士階級、聖ヨハネ騎士団の拠点とされていた。この階級がピサに存在することが初めて史料に記されるのは1113年のことである。

サント・セポルクロ教会の平面図が八角形状になっているのは、聖地エルサレムの教会特に岩のドームがベースになったとされ、最初の十字軍遠征の際ピサの兵士の目にも留まったとされる。この建築は、ピサの大聖堂の円形洗礼堂を手掛けたのと同じディオティサルヴィの作とされる。彫り込み装飾のスタイルの特徴から、12世紀後半頃にさかのぼると見られる。

教会内部は、同心円状に配された八角形の礼拝堂と、それを支える五角形のピラスターが尖頭アーチをかたどる身長の高い構造体から構成される。祭壇の上部には美しい丸天井があり、外側からは八角形状の角錐に見える。身廊を取り囲む側廊に面した門扉は、内外面ともに植物モチーフの意匠化による図柄の見事な象嵌石細工が施されている。鐘楼堂には建築家ディオティサルヴィの名が刻み込まれた碑銘がある。

サン・パオロ・ア・リパ・ダルノ教会

この教会は、史料によればはるか1032年にもさかのぼるベネディクト会修道院に隣接して建てられたもので、列柱により区分される三本の身廊とその奥の袖廊、主祭壇後方には半円形後陣が配された貫禄あるロマネスク様式の教会である。袖廊と身廊が交わる部分の上部には半球形の丸天井を冠する。この教会の本堂が現在見られるような形になったのは12世紀半ば、ファサード上部が完成されたのは13世紀初めとされる。

重厚感ある建物のファサードは、一部大理石張りされ、ピサの大聖堂にも似た様式の美しい彫り込み装飾が施されている。この壮大な高さの一階部分立面図には大門扉が三面と、くぼんだひし形枠に丸窓が穿たれたブラインドアーチ五面が連なる。その上層には、葉の装飾モチーフによる柱頭を冠する円柱が並ぶロジアが三層重なる。上層と下層を分かつコーニスには動物モチーフの彫り込みが見られる。大門扉の上に渡された下側のコーニスには人と怪物のモチーフが用いられる。主門扉と左側の袖廊の門扉は大理石の象嵌による幾何学模様の装飾がある。

また、ファサードの装飾には両手を挙げる聖母マリアをかたどったビザンチン様式のレリーフ二版もある。左側の壁面には二種のオーダーによるブラインドアーチ、袖廊の門扉上には古代サルコファガスによる装飾が見られる。